2019/05/25

モリッシー「カリフォルニア・サン」レビュー

★総評
モリシーが今歌いたい歌(たぶん若い頃に影響を受けた歌)、60年~70年代のアメリカのアーティストの12曲をストレートに思い入れたっぷりに歌っている。
60年代のプロテストソングを3曲を歌っていて、今のモリシーにシンクロした出来になっているのが興味深い。モリシーの今の気分は時空を遡って60年代「プロテスト」なのかもしれない。

オリジナルの歌詞と比べると結構歌詞を変えたり省略しているが、意図的に変えてるというよりはオリジナルを意識せずに記憶のまま自由に歌っている感じがする。本当のところを本人に確認したい。

カバー曲なのでモリシーの歌詞に向かい合う必要もなく気楽に聞ける反面、演奏・アレンジがオリジナル以上に気になってしまった。このプロデューサーやミキサーはアレンジや効果音に凝る割にはボリュームの増減や割り込み方(?)に雑な傾向があって、今回も所々目立っている。全体的にもっとシンプルなアレンジにした方が、原曲の良さを損わずにボーカルをもっと引き立たせることができたように思う。モリシーのボーカルとボーカルの録音クオリティには今回も文句なし!

知らないアーティストや名曲を沢山紹介してもらったので、これから開拓していきたい。

★曲別レビュー
01. Morning Starship (Jobriath) ★★★★☆
歌い方にジョブライアスへの愛が溢れているが、原曲の"kinky"な部分が消えて普通のポップス風になってしまったの少しだけ残念。ジョブライアスや初期のボウイのボーカルから匂い立つ危さや脆さがモリシーの歌い方に無い分だけ、SFシンセをもっとガンガン効かせたら面白い仕上がりになったと思う。「ブーンブーンブーン」を付け足す60歳最高!

02. Don’t Interrupt The Sorrow (Joni Mitchell)★★★☆☆
モリシーがジョニの曲を選ぶとは意外だったが、この曲でなくてもよかったのではこの曲でなければならない理由があった(この曲と収録アルバムは傑作だった!詳細は後日)歌詞が今ひとつモリシーに合っていない気がする。ボーカル含めアレンジが惜しい仕上がり。イージーリスニング系(?)のサックスソロが興ざめ。演奏・アレンジをもっとシンプルにするかファンキーにすれば全く違う印象になって良かったかもしれない。

03. Only A Pawn In Their Game (Bob Dylan)★★★★★
フォーク・トラッドの定番メロディをモリシーが歌うとこんなに力強くかっこよく響くのかと新鮮な驚きがあった。
リリースは64年。ディランの数ある名曲のなかでこのプロテストソングを選んだ気持ちが分かる。権力の犠牲になった一人の兵士や若者をテーマにした歌は近年オリジナルでも歌っている。前作のアルバム”Low In High School”の"I Wish You Lonely"と"I Bury the Living"の2曲をまだ聞いたことがなければ、この機会にぜひ聴きくらべてほしい。

04. Suffer The Little Children (Buffy Sainte Marie)★★★★★
楽しい!のっちゃう!モリシーに合っている!プロテストソングだが歌詞とメロディに可笑しみとアイロニーが混ざっている傑作!このウィット感はモリシーの詩世界と共通するものがある。スミスの同名タイトル(”the”は無いが)はこの曲から来ているのかな。確か少し前にモリシーと彼女の楽屋での2ショットが公開されていたと思う。彼女が前座になる話もあったような。実現しますように。

05. Days Of Decision (Phil Ochs)★★★★★
フィル・オクスのことも初めて知った。こちらもプロテストソングで64年リリース。淡々とした描写とそれが"these are the days of decision"だとしか言わない歌詞が素晴らしい。モリシーの歌声はフィルよりも優しくノスタルジックだが、当時を振り返っている感じがしてかえってそこが良い。傑作。
フィル・オクスはディランと共に60年代のフォーク・ムーブメントを牽引したが35歳で自殺している。プロテストシンガーとして生きた波乱の人生だったようだ。ドキュメンタリーDVDが出ているのでチェックしたい。
この曲はフィル・オクスのオリジナルだが、ディランの"Only A Pawn"と同じくフォーク・トラッドの定番曲のパターンを踏襲している。アイリッシュパブなどで歌われるアイリッシュ伝統歌と似た曲調と言ったらわかりやすいだろうか。モリシーがアイリッシュ・ブラッドだからか、このアルバムではこの2曲の歌いっぷりが特に輝いているように感じた。

06. It’s Over (Roy Orbison)★★★☆☆
モリシーのお蔭でLPのことも知れて感謝。独特の声質を持ったシンガーでルックスもカッコ良くアルバムも買ってしまった。でも何故デュエットの定番のように1番はモリシー、2番はLP、サビは一緒に歌う構成にしなかったのか不思議。モズ&スージーのデュエットの時の様に演歌チックな仕上がりにすれば最高だったと思う。

07. Wedding Bell Blues (Laura Nyro)★★★★★
モリシーがビル(ビリー・ジョー・アームストロング)に結婚してと歌うのを聴くのが単純に楽しい。プロデューサーがビルはビリーでもビリー・コーガンに声をかけなくて良かった。アレンジもポップで良い。

08. Loneliness Remembers What Happiness Forgets (Dionne Warwick)★★☆☆☆
ボッサなモリシーの軽い歌声が新鮮だが、演奏がカラオケっぽいせいかあまり印象に残らない。彼女の曲なら"Heartbreaker"か"I'll Never Love This Way Again"をカバーしてくれた方がグッときたかもしれない。

09. Lady Willpower (Gary Puckett & the Union Gap)★★★★★
モリシーのパワフルなボーカルをシンプルに楽しめる作品。関係者がインタビューで語っている通り変調が難しい曲だが、モリシーは朗々と歌いこなしている。大胆なアレンジもこれはこれで良いと思う。

10. When You Close Your Eyes (Carly Simon)★☆☆☆☆
イージーリスニング風のアレンジが好みではない。もわっとした女性コーラス隊がまとわりついてくる。スネアドラム(?)の音が割れているように聞こえるのは私だけ?原曲は素晴らしいのに残念。完全にSFっぽいアレンジかストリングスを入れたら良かったかもしれない。今回モリシーが女性シンガーの曲に沢山チャレンジしたのは評価したい。

11. Lenny’s Tune (Tim Hardin)★★★★★
この曲は泣ける!モリシーが耳元で歌ってくれているよう!このプロデューサーのボーカル録音スキルはいつも本当に素晴らしい!原曲も傑作なので合わせて聴いてほしい。レニー・ブルースに捧げた曲だそうだが、歌詞にもある通り彼はモルヒネ中毒で40歳で亡くなっている。語りかける歌詞に心を揺さぶられる。ティム・ハーディン自身も薬物中毒で39歳で亡くなっていた。彼の曲はこれから開拓したい。

12. Some Say I Got Devil (Melanie)★★☆☆☆
この歌詞のすべてが今の自分そのものなので聞いてくれ!という気持ちが伝わってくる。でもアレンジが私にはドラマチックすぎた。最近のオリジナル曲にも似たようなアレンジの曲があってマンネリ化してきていると思う。モリシーの好みなのかもしれないが。
次回作ではプロデューサーを変えて、これらのカバー曲を超える斬新な曲にもチャレンジするとよいと思う。外部からも作曲者を募ってほしい。

★総合評価:3.75/5 stars

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